カチェリーナは変わらない世界に倦いていた。新しい世界に出会えると思ってワイアードに憧れ、一日中タブレットを触っていたが、そういう毎日はループするだけだった。ワイアードの幻想は死んだ。いつも同じ言葉で検索し、同じ結果が返ってくる。何も新しい知識は身につかない。昨日も今日も明日も同じなのだ。このままウクライナの辺境の地で、同じ世界を反復するだけなら生きていても意味がないと思った。

アラン・チューリングは青酸カリを塗った毒林檎を食べて死を遂げたが、カチェリーナはそれを真似ようと居城の近くの果樹園で青い林檎をもいだ。そして農薬を塗りたくってから口に含んだ。何とか囓って飲み込んではみたが、有機リン化合物の薬臭には耐えきれず胃の内容物を吐き戻すことになった。地べたで悶絶しながら痙攣した。こうなると不思議と生きる力が湧いてくるものである。普段の病弱な彼女からは信じられないような力で近くの井戸まで這っていった。井戸水を大量に飲み、何度も吐いた。

「なぜ生きようとしてるのか。もはやワイアードの夢は断たれた。現実も夢も死んだのに生きていくというのか」

カチェリーナは亡骸のように地面に横たわったが、まだ心臓は息づいていた。何者にもなれずこの世界で死んだのに、肉体は躯にはなれなかった。

それから彼女は吐瀉物で汚れた服と靴を脱ぎ捨て、頭から水をかぶった。そして濡れたキャミソール姿で家への道を裸足で歩いた。農薬の量が足りなかったため、命を取り留めてしまったようだ。幼い頃からの病気で、使い切れない財産にも意味が無く、類い希な美貌を持っていても街を飛び回ることは出来ない。これだけ業病に悩まされているのに生命だけは立ち去ってくれないのだ。

彼女は水滴がしたたる金色の髪を梳いて、長い睫毛をそっと閉じた。そして天使のような可愛らしい唇に悪魔の笑みを浮かべた。天啓が訪れたのだ。

「ツイッターが悪い」

カチェリーナは限りない世界をワイアードに求めていた。しかし毎日同じことの反復だった。その諸悪の根源はツイッターだった。

「わたしはツイッターで新しい発見をしたことがない。何ら好奇心が刺激されたこともない。ツイッターで知性が向上した人は一人もいない。毎日毎日同じことを反復しているだけだ」

知性にとって好奇心が力への意志だ。ツイッターは知性の翼をもいでしまう。病弱でウクライナの辺境に生きるしかないカチェリーナにとって、知性で新しい世界に出会うことだけが希望だった。ツイッターは脳を拡張する導線にはならないのだ。デマをRTして納得して終わり。検索すらしない愚衆の集まりなのだ。本来は聡明であるカチェリーナもツイッターに忙殺され、怠惰の反復に飲み込まれていたのだ。

「ワイアードにあるツールはすべて知性が低い人間を飼い慣らすためのものだ。それでは新しい場所に辿り着けない。わたしは現在に絶望し、明日また同じ現在が訪れることに絶望している。わたしは未知の未来だけが欲しいんだ」

問題は病魔ではなかった。力への意志が足りないのが問題なのだ。自分の好奇心で切り開かなければ、何も得られはしない。ワイアードは天国ではない。開拓者としての行動力がない限り、毎日が同じことの永劫回帰であり、先には進めないのだ。カチェリーナは自分にその力がないのを自覚して目眩がした。重力の魔に襲われ、濡れた身体で地面にうつ伏した。このまま死んでしまえばいいと思った。しかし病魔は彼女を襲い続けるが、死だけは与えてくれないのだ。







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