2013.06.27
深夜は思想がはかどる
真夜中にカチェリーナは宮殿の外に出て、領地のブルーベリー畑に出向いた。大きな粒だけを選んで篭に入れた。そしてそれをベッドルームに持ち帰ると、いつも通りミキサーに放り込んだ。氷とブルーベリーが一気に破砕されていく。こうやって果肉が切り刻まれ、そこからほとばしる甘みが本物なのだ。出来上がったものをグラスに注いで口に含みながら、ブルーベリーの食感を楽しみつつ、超人思想に浸った。
「力への意志により、人類を克服しなければならない」
もはや神は死んであらゆる価値が崩壊した。そういう世界だからこそ、すべてを止揚する超越思想が必要なのである。神が死んだ世界で、有象無象の人間がせめぎ合う姿は悪夢であるが、それもまた人間界の一興であるし、そこから超人が生まれればよいのである。
やがて窓の外がほんのり明るくなってくると、カチェリーナはうんざりした。また日常性がやってくるのだ。死が迫っているというのに、陽射しが彼女を日常に回収しようとする。
「深夜こそがわたしの世界なのだ。漆黒という画布にこそ、わたしの心象世界は描ける。世俗的な光を受け付けない圧倒的な暗闇こそ、内面の豊饒たる星辰の瞬きを隅から隅まで映し、それぞれの星屑に意味を与え、こめられた意味は甘く色づき、ひとつひとつを関係性の力学の中に鎮座させるのだ」
カチェリーナは窓を開け、薄明かりとまだ消えない夜空が紛れる景色を見ながら、普通のひとたちが、この明け方にはまだ寝ていることに驚くのである。そしてそろそろ起き出して日常性に動員されるのだ。最も生産的であるはずの深夜にひとびとは寝ていて、人間の内面性が奪い去られる日中には、陽射しという重力の中で働いているのだ。
「明るい陽射しは人間の現実を映し出し、その外的な仮面を繋げ、それぞれの内面を粛々と破棄していく。個々人のそれぞれの立ち位置や事情から他者と関わり、汎用的な認識コードを与えられ、役割を演じ、そして俗世に埋没していくのだ。埋め立てられるために目覚めようというのか」
カチェリーナには現実など不要だった。ウクライナで最高の美少女として生まれたが、他人と接触しないので、そのような美貌はいらなかった。現実において美少女として存在し、その美で様々な利益を得るのは、生まれつき大富豪の彼女にとってまったく関心がなかった。業病である偏頭痛を選ばれた者である証として考え、内面世界を育んできたのである。しかしもはや死期は迫っている。この世界に痕跡すら残せず、立ち去っていくのだ。
「わたしの深夜の内面世界と、人間どもが蠢く昼間の現実世界。これが交差することがあるだろうか」
暖かな陽射しがこぼれ始めると、先ほどまで描いていた超人思想が萎んでいくような気がした。深夜にしか力への意志は生まれないのか、とカチェリーナは呻いた。
「力への意志により、人類を克服しなければならない」
もはや神は死んであらゆる価値が崩壊した。そういう世界だからこそ、すべてを止揚する超越思想が必要なのである。神が死んだ世界で、有象無象の人間がせめぎ合う姿は悪夢であるが、それもまた人間界の一興であるし、そこから超人が生まれればよいのである。
やがて窓の外がほんのり明るくなってくると、カチェリーナはうんざりした。また日常性がやってくるのだ。死が迫っているというのに、陽射しが彼女を日常に回収しようとする。
「深夜こそがわたしの世界なのだ。漆黒という画布にこそ、わたしの心象世界は描ける。世俗的な光を受け付けない圧倒的な暗闇こそ、内面の豊饒たる星辰の瞬きを隅から隅まで映し、それぞれの星屑に意味を与え、こめられた意味は甘く色づき、ひとつひとつを関係性の力学の中に鎮座させるのだ」
カチェリーナは窓を開け、薄明かりとまだ消えない夜空が紛れる景色を見ながら、普通のひとたちが、この明け方にはまだ寝ていることに驚くのである。そしてそろそろ起き出して日常性に動員されるのだ。最も生産的であるはずの深夜にひとびとは寝ていて、人間の内面性が奪い去られる日中には、陽射しという重力の中で働いているのだ。
「明るい陽射しは人間の現実を映し出し、その外的な仮面を繋げ、それぞれの内面を粛々と破棄していく。個々人のそれぞれの立ち位置や事情から他者と関わり、汎用的な認識コードを与えられ、役割を演じ、そして俗世に埋没していくのだ。埋め立てられるために目覚めようというのか」
カチェリーナには現実など不要だった。ウクライナで最高の美少女として生まれたが、他人と接触しないので、そのような美貌はいらなかった。現実において美少女として存在し、その美で様々な利益を得るのは、生まれつき大富豪の彼女にとってまったく関心がなかった。業病である偏頭痛を選ばれた者である証として考え、内面世界を育んできたのである。しかしもはや死期は迫っている。この世界に痕跡すら残せず、立ち去っていくのだ。
「わたしの深夜の内面世界と、人間どもが蠢く昼間の現実世界。これが交差することがあるだろうか」
暖かな陽射しがこぼれ始めると、先ほどまで描いていた超人思想が萎んでいくような気がした。深夜にしか力への意志は生まれないのか、とカチェリーナは呻いた。
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