2013.07.24

欲望の固有性

カチェリーナは天国を否定し神も信じていなかったが、心の片隅に一欠片だけ、天国のベルサイユ宮殿でお姫様になるという夢が残っていた。カチェリーナはこういう甘えた考えを憎んだ。児戯とも言える希望は完全に消去してから死ななければならなかった。死ねば死体になり、その白眼を剥いて息絶えた身体からは腐臭が漂い、その肉を野鳥が啄み、野犬がかみ切るだろう。その露わになった内臓と骨格は、カチェリーナそのものであり、霊魂だけが都合よく脱出して天国に行くなどあり得なかった。目玉を食いちぎられ、眼窩が剥き出しになり、単なる死体となるだけなのだ。天国を夢想するのは、本物の死生観に向き合わないことであり、曖昧な現世をおぼろげに延長するだけである。

「世間の連中が霊魂と言っているのは、生体反応のことだ。死んで死体になったら生体反応は消えるに決まってるじゃないか」

カチェリーナは木いちごのジャムをスプーンで掬って口に含んだ。この甘みは脳細胞の反応にしか過ぎないのだ。そしてこの甘みは普遍的なものである。カチェリーナ固有の感覚ではない。

「霊魂とは普遍性と固有性の混同なんだよ。人間であれば、だれでも同じような感覚を持つのに、その感覚を自分固有のものだと錯誤する」

霊魂など我執に過ぎないとカチェリーナは思った。木いちごのほとばしる甘みは普遍的である。それを自分自身で体験したいから、天国という妄想を抱くのだ。

「こうやって考えると、わたしの固有性を否定することがポイントになりそうだ。口で言うのはたやすいが、果たしてこのわたしが自らの固有性を迷妄と断じることが出来るかどうか」







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