「天国はあるんだ。天国がないなら、われわれは虫けらのように繁殖し、虫けらのように死んでいくだけではないか。断じてそのようなことはあり得ない」
カチェリーナはグルーシェンカの足下にうずくまりながら涙をこぼした。無神論者のグルーシェンカが薄ら笑いしているのは手に取るようにわかったが、それでも泣かずにはいられなかった。
「カチェリーナ様は理想が高い行き遅れのおばさんと同じです。発想そのものが、四十過ぎの独身のおばさんなのです。これから死ぬわけですから、そういうおばさんと大差ない人生でした」
「理想が高いのは罪だというのか」
「犯罪です。人間は決断主義者にならなければ生き残ることが出来ない」
グルーシェンカはカチェリーナの目を覗き込んできた。カチェリーナは目をあわさざるを得なかった。そこにいたのは紛れもない無神論者だった。修道女の格好をしながら神などひとつも信じてはおらず、死んだらすべてが消えると思っているのだ。カチェリーナは恐れ震えるしかなかった。
「カチェリーナ様の天国への考えを聞きたいです。現世の設定は天国に引き継がれるのでしょうか。現世で本当にお姫様だった人と、カチェリーナ様のようにニセモノのお姫様だった人は、天国で扱いが違うのでしょうか」
「誰でもお姫様になれる。それが天国だ」
「現世での婚姻関係は、天国でも引き継がれるのでしょうか」
「それは人それぞれだろうな」
「現世で相手がいない人は天国でどうなるのでしょうか」
「あてがわれるのではないか」
「幻想の相手が作られるわけですね。独身のおばさんにはそれがふさわしいかもしれませんわ」
「わたしはまだ15歳だ」
「カチェリーナ様は独身のおばさんとなんら変わりないですよ。理想が高いだけの他力本願のゴミです」
カチェリーナは、これほどまでに他人を蔑んだ目を見たことがなかった。カチェリーナのような大富豪の美少女を、このグルーシェンカという無神論者は心底馬鹿にしているのだった。カチェリーナは敗北感にうちひしがれた。どう考えてもグルーシェンカの方が正しかった。これから死んで天国に行ってお姫様になるというのは、明らかに荒唐無稽であった。高望みして生きてきた独身のおばさんたちに天国で王子様があてがわれるのはありえなかった。
「理想と言えば聞こえがいいですが、要は空想ですよね。独身のおばさんが15年間空想してるだけの人生だったのです」
グルーシェンカはカチェリーナを睥睨した。それはカチェリーナにとって、全宇宙の質量を持った重力だった。ベルサイユ宮殿を摸したお城で育んだ夢想はすべて唾棄されていた。広大な宇宙の片隅で、虫けらが15年間うごめいていただけだった。







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