カチェリーナはグルーシェンカの足下に転がっていた。寿命が延びたことで、かえって何も出来ないことが露呈した。あと何年か生きたところで、これまでの人生何も積み重ねていないのだから、今さら追いつくことは出来ず、消化試合にしかならないのだ。
「ひとつ教えてくれ。おまえは地球が出来てから45億年というのを信じているのだろうか」
「信じてます」
「45億年経過して、ようやく人間という知的生命体が登場したということだな。その一番最初の時期にわたしたちは生きているわけだ」
「そうです」
「あまりにもおかしくないだろうか。45億年経過して、ようやく知的生命体が生まれて、たまたまその時期にわたしたちが生きているということ自体がおかしい。45億年というのは、設定上の見せかけであり、実際は最近出来たのかもしれない」
「進化論を否定なさっているわけですね。カチェリーナ様は無神論者だと思っていたのですが、ここに来て宇宙は6000年前に作られたと言い出すとは、まさに藁にもすがる思いなのでしょう」
「人類が文字を使い始めたのは6000年くらい前だろう。だいたいそれで説明が付く。45億年も知的生命体が誕生しなくて、数千年前から文字が使われはじめたとか、不自然だろう」
「45億年掛かって、ようやく文字を読み書きできるようになったのです」
「わたしは知性の発端の時期に、ほんの一瞬だけ生まれてきたということか」
「その通りです。たまたま文明の発端に生まれたというだけなので、宇宙の創世に居合わせたような、そういう傲慢な発想をするのは誤りです」
カチェリーナは顔を上げてグルーシェンカを見た。その表情はいつも通り平然としていて、まったく神を信じていない様子が窺えた。
「なぜおまえはそのように耐えていられるのか」
「ごくごく当たり前の事実を受け取っているだけです。地球は45億年前に出来た。知的生命体はつい最近出来た。生命は進化するので、現在の人類はいずれ原始人扱い」
カチェリーナは反論することが出来なかった。人類が神の似姿である最終的な存在というのは迷妄であり、今後いくらでも進化し、より高等な生物に生まれ変わるに違いなかった。だが、それは理屈の問題であり、到底歓迎するわけにはいかなかった。







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