カチェリーナはグルーシェンカに反論する余地などなかった。カチェリーナ自体、もともと神など信じていないのだった。ただ、自分の存在が消えさることへの不安から、神にすがっているだけだった。
「わたしの信仰心が足りないのが原因だろうか」
「信仰してもしなくても、なんら変わりがありません」
「おまえの言うとおり、45億年掛けてここまで進化してきたということは、もちろんこれからも進化するわけだよな」
「100万年もすれば、人類と北京原人は大差ないです。1億年もすれば、哺乳類を超える高等生物が生まれ、人間など滅びるでしょう。なまじ知能があるから、ネアンデルタール人と同じく滅ぼされると思います」
カチェリーナはただ黙り込むしかなかった。グルーシェンカの方が圧倒的に正しかった。ホモサピエンスが進化して、より高等な生物になるのは、当然の話である。人類より優れた生き物は決して生まれないなんて、そんなことはあり得なかった。
「ではいずれ原始人扱いになるわれわれが築き上げた文明はどうなるのか。あまりにもみじめではないか」
「エジソンがいなくても電球は誰かが発明してたのですよ。同時発見の法則というのがあって、機が熟せば誰かが発見する。そのタッチの差で勝ったのが天才と呼ばれる。昆虫が繁殖するように、文明は勝手に育っていく。たいしたことではないのです」
今までカチェリーナは進化論というのを深刻に考えたことがなかった。いざ考えてみると、とても恐ろしい思想だった。人類は万物の霊長などではないのだ。45億年という時間のスケールからすれば、あっと言う間に下等生物に成り下がってしまう。世間の人間が普通に生きているのがとても不思議に思えた。
「人類が下等生物であり、いずれ滅びるというのであれば、生きる価値などないではないか」
「だから進化論は恐ろしいのです。人間が万物の霊長であり続けるなら、数多の悲劇の歴史も人類を鍛えるための試練と考えられますが、進化で乗り越えられて下等生物に身を落とすとなると、単なる卑しいケダモノが地獄で暴れていただけということになるのです」
「1億年も経てば、われわれは爬虫類と同じ扱いか。これだけ恐ろしい事実はないぞ」
カチェリーナは自分が汗まみれになっているのに気づいた。人類が単なるケダモノだと気づいたことで、すべての価値が崩壊した。進化論を信じるなら、いずれ人間が下等生物に転落するなど当たり前の話だったが、今までそれに思い至らなかったのだ。







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