「そう言えばカチェリーナ様はiPhone愛好家として知られていますが」
グルーシェンカは面白そうな笑みを口元に浮かべた。カチェリーナにはその笑いの意味がわからなかったが、愛するiPhoneの話である。自信を持って答えることが出来た。
「iPhoneほど素晴らしい端末はこの世にないだろう。iPhoneこそ我が人生である。iPhoneに出会えたことが、わたしの人生で唯一素晴らしいことだった」
「最近はiPhoneを使っていると恥をかくそうですよ。もはや時代遅れです」
「おまえのGalaxyは調子が悪いらしいな。気の毒に」
カチェリーナはグルーシェンカを見上げて薄笑った。最近はグルーシェンカにやられる一方だったが、相手が使っているのはGalaxyのようである。GalaxyなどでiPhoneに太刀打ちできるはずがない。
「では、カチェリーナ様はiPhoneを使い続けると誓えますか。それ以外は断じて使わないと」
「誓ってみせる。iPhoneさえあれば、何があっても退屈しない」
「なるほど。では試しにわたしの端末を使っていただけるでしょうか。iPhone愛好家にはお気に召さないと思われますが」
グルーシェンカはそう言うと、掌より少し大きい黒い端末を取りだした。
「なんだこれは?」
「最近発売されたNexus 7です。カチェリーナ様の愛するiPhoneには劣ると思いますが、試しに使ってみてください」
「いいだろう」
カチェリーナはNexus 7を手に取った。たまには下々の使うゴミ端末を扱ってみるのも一興である。側面にあるスイッチらしきものを推すとホーム画面が現れた。
「これは……」
カチェリーナが想像もしなかった美しさだった。この世界のすべてを鏡として映し出せるような、微細で煌びやかな液晶であった。
「1920×1200(WUXGA)の液晶です。1.5GHz クアッドコアですから、動画の再生もスムーズです」
そう言われておそるおそる動画を再生してみた。そこに映し出される映像は、現実の写し絵としか思えず、細部から細部まで流麗な美が存在していた。またサラウンドの音声も心地よく、目の前で見る人間にちょうどいい快適さだった。この動画と音に取り巻かれてしまうと、もはやiPhoneなど時代遅れの朽ち果てた端末にしか過ぎなかった。
「Nexus 7は寝転がりながら数十センチあたりで見ると、視覚、触覚、聴覚のすべてが支配され、ひとつのコスモスが出現するのです。映画館の大画面も、このユーザー体験には敵いません」
「ぐぬぬ」
自宅に映画館があるカチェリーナもこれは認めざるを得なかった。ベッドに潜りながらNexus 7で映画を見た方が確実に楽しめるのは明らかだった。
「電子書籍リーダーとしてもNexus 7は最高峰なのです」
グルーシェンカにうながされ、カチェリーナは震える手で電子書籍を起動してみた。そこに表示される画像には呻るしかなかった。iPhoneと違って文字が潰れていない。1920×1200(WUXGA)の液晶が、書体の輪郭を損ねることなく、そのまま鮮明に映し出すのだ。
「漫画を表示させるとさらに最高ですよ。紙を越えていると思います」
コミックをクリックして見てみると、カチェリーナは雷に撃たれたような衝撃を受けた。スクリーントーンの匂いや、描線の質感がそのまま再現され、その凛とした美には法悦するしかなかった。
「たいしたことはないな。iPhone以外を使うのはあり得ない」
カチェリーナは自分の声が震えているのに気づいたが、抑えが効かなかった。
「これからはiPhoneを持っているだけで笑い物になるでしょう。カチェリーナ様はそれでもiPhoneへの愛を貫き、決してNexus 7を買わないと誓ったのですから、ご立派です」
カチェリーナは床を這いながら、目の前が真っ暗になった。余計な誓いをしたために、Nexus 7を手にしながら寝転がるという桃源郷には辿り着けず、潰れた文字しか表現できないiPhoneをこれからも使い続けなければならないのだ。







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