カチェリーナはとうとうNexus 7を購入した。LTE版である。もうiPhoneなど使う余地はない。グルーシェンカに見せびらかすために使いの者をやって呼びつけた。
「これはLTE版である。Wi-Fiがなくても使えるのだ。おまえは先走ってWi-Fi版買ってしまったからな」
「Wi-FiないところではiPhone使いますし」
「あと、おまえのNexus 7に貼ってある保護フィルムだが、フィルムを貼ると感度が悪くなる。わたしのように裸で使うのがベストだ。傷が付いたら買い直すだけだからな。わたしの資産なら何百万台だって買えるのだ」
「よかったですね。ところでカチェリーナ様がいちいち人を寄越すのが面倒です。スマホかタブレットで通信したいです」
「ああ、そうか。まあいいだろう」
「当然LINEくらいやってますよね」
そう言われるとカチェリーナは硬直した。LINEなどやっているわけがない。だが、やってないとわかると、またグルーシェンカから馬鹿にされるだろう。
「やはり気が変わった。上流の人とだけコミュニケーションしたいので、おまえみたいな下層と関わりたくない」
「まさかLINEすらやってないとか」
「そんなことはない。おまえのような貧民窟のゴミとは無縁のセレブな人達とやり取りしてる」
「このベルサイユ宮殿を摸したお城ですが、700くらい部屋があるんですよね」
「まあな。最新技術を使っているが、ある程度は本家を真似ている」
「しかしこれだけ巨大なお城なのに、ほとんど無人ですよね。カチェリーナ様と使用人が暮らしてるだけで、セレブな人達が出入りしている様子などありません」
「わたしは病弱だからな。毎晩パーティーを開くわけにもいかないさ」
そう言いながらも、カチェリーナは膝が震えていた。グルーシェンカの訊問にシラを切り通せたことなどないのだ。カチェリーナはいつの間にか大粒の涙を流していた。そして唇を強く噛んだ。
「どうなされたのでしょう」
「生まれてからひとりも友達が出来たこと無いのに、LINEやる仲間とか、お城でワイワイ騒ぐ相手などいるわけがない」
カチェリーナだって自分の生活の空しさは自覚していた。貴族でもないのに、これだけ巨大な城を作り、ほとんど無人の状態というのは滑稽だった。
「人と関わらないと、スマホもタブレットも楽しくないです。カチェリーナ様はツイッターも独り言だけでリプしてないようですが、他にどんな使い方されてるのでしょう」
「金に物をいわせて、ゲームのガチャをたくさん回したりとか」
「あれはパチンコと変わりません。やはりSNSこそがスマホ・タブレットの愉しみ。SNSくらい気軽にやればいいんですよ。わたしはLINEやSkypeで1000人以上とやりとりしています。相手が女の子だと確認できれば直接会って遊んだりします」
そういう話を聞くと、嫉妬の感情にかられた。やはりこういう社交的な人間はあちこちで友達を作って、楽しくやっているのだ。なぜかわからないが、ひどい裏切りにあったような気がした。
「もういい。生まれてから友達がひとりもいないという段階で、わたしは終わってる。おまえは友達がたくさんいるのだから、そいつらとワイワイやればいいだろう」
カチェリーナはずっと寂しい人生を歩んできたが、これだけ打ち拉がれたことはなかった。同類だと考えていたグルーシェンカでさえ、人生を謳歌していたのだ。
「でもわたしだって、表向きは誰とでも仲良くなれますが、本当の親友はひとりもいません」
「そうなのか」
「無邪気で天真爛漫な仮の姿を演じてますから、本当の自分ではないのです。わたしの悪魔的な思想を吐露できる友達はひとりもいません」
それを聞いてカチェリーナは安心した。やはりグルーシェンカには現世を超越した存在でいて欲しかった。グルーシェンカが普通の女の子になるなんて、カチェリーナには耐えられなかった。
「親友になりたい相手がひとりだけいるのですが、とても気難しい子なので、なかなかうまくいきません」
そう言うと、グルーシェンカは目を伏せた。カチェリーナの内面に憎悪が生まれた。何が何でもその相手とグルーシェンカの仲を引き裂かねばならないと思った。
「SNSは悪である。その相手とは決して仲良くするな。悪魔のように生きてこそ、おまえの存在に意味がある」
「わかりました。これからはさらに悪魔的に振る舞うことにします」







スポンサードリンク

最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
リンク
スポンサードリンク
RSSフィード
プロフィール

ukdata

Author:ukdata
FC2ブログへようこそ!

katja1945uk-jp■yahoo.co.jp http://twitter.com/ukrss
あわせて読みたい
あわせて読みたいブログパーツ
アクセスランキング