2013.10.07

学校教育

カチェリーナは気絶していたようである。目を醒ますと、グルーシェンカの顔が見えた。
「ここはどこだ」
「わたしの家です」
見回すとグルーシェンカの部屋のようだった。そこのベッドに寝かされているのだ。カチェリーナの頭の中にはまだ衝撃が残っていた。グルーシェンカの姉のリザヴェータの絵と比較されたことで、漫画家になるという夢は完全に砕かれた。アーティストとして新しい自分になるという夢が潰えたのだ。
「もうわたしは終わった。死ぬしかない」
「漫画家を目指すのはどうなったんですか」
「もはやそんな気力はない」
あれだけの圧倒的な才能の格差を見せられたら、もう二度と立ちあがることは出来ないのだ。
「それならよかったです。人間の寿命は延びていますが、どれだけ長寿になろうとも若さの有限性は変わりません。失われるところだった三年間を取り戻したのですから、もっと有効なことに使うべきです」
「どうしろっていうんだよ」
「カチェリーナ様は学校に行くべきです。ネットではバラバラの知識しか入ってきません。学校で体系的な知識を身につけるべきです」
「学校など不要である。ネットの普及で学校など滅びる」
「カチェリーナ様が入学できる学校を見つけておいたのですが」
「断じて断る」
どうせグルーシェンカが見つけてきた学校などろくなところではないだろう。貧困層のワルの溜まり場に違いなかった。
「断るのですか、残念です。わたしとリザヴェータ姉さんも通っていた学校で」
その名前はカチェリーナも憧れていたお嬢様学校であった。名門貴族の令嬢が通うところである。
「理事長から、カチェリーナ様の入学は問題ないと言われたのですが、お断りの電話を」
グルーシェンカがiPhoneを取りだした。
「待て」
カチェリーナはグルーシェンカを制した。
「話だけでも聞いておこうかな」
「いやいや、三年間ゴロゴロしながらアーティストを目指してください。それがカチェリーナ様にはお似合いです」
「そう言わずに話だけでも」
カチェリーナはグルーシェンカにしがみついた。
「ではお話だけ。カチェリーナ様について勝手にお調べしましたが、小学校は一日も通ってませんが卒業扱いです。小学校は通わなくても卒業になるようです」
「おお、そうなのか。小学校卒という学歴はあるわけだ」
カチェリーナの中に歓びが生じたが、あまりにもレベルが低いと思い直した。
「だから学校には中学一年から入ってもらいます。飛び級もあるので、最短なら三年で高校を卒業できます」
「わたしは本当にそこに入れるのだろうか。わたしは貴族でも何でもないぞ」
「カチェリーナ様はウクライナ有数の有力者ですから問題ありません。生徒の多くは貴族ですが、そうでなくても金持ちであれば入れる」
「しかし貴族の中に入るのは気が引ける」
カチェリーナは貴族に強い憧れを抱いているが、コンプレックスも強いのだ。憧れの名門お嬢様学校で貴族と戯れたいが、疎外されたら恐いという畏怖もある。
「カチェリーナ様は出自に引け目があるのでしょうか」
「当たり前だ。うちの父親なんてウクライナの資源を食い物にしていたわけだしな」
「カチェリーナ様と似た立場のアブラモビッチだって堂々と生きています」
「アブラモビッチをリスペクトしている人間は世界中に一人もいないだろ。それがすべてだ。わたしは偉大な人間にならなければならない」
どんなに金があろうと美しかろうと意味がない。歴史に残るような偉大な人物にならなければならない。それがカチェリーナのこだわりだった。
「学校の件ですが、条件がひとつあります」
「なんだよ」
「わたしが後見人になるという条件で入学許可を得たので、わたしの家から通学してもらいます。ここからなら徒歩で通えます。カチェリーナ様がゴロゴロしないように監視できる。家でも勉強に集中してもらいます」
グルーシェンカの家に泊めてもらえるのは嬉しいが、それが長期に渡り、なおかつ監視されるとなると嬉しくない。
「いや、おまえの家族だって迷惑だろう」
「両親は了解済みです。リザヴェータ姉さんだってカチェリーナ様の大ファンなんです。さっきカチェリーナ様を傷つけたから、嫌われたと思って、今は部屋で泣いています。この家でカチェリーナ様を嫌ってるのはわたしだけですから、多数決で問題ないです」
「この家でゴロゴロしたらどうなるのだ」
「人間サンドバッグにします。カチェリーナ様を殴るのは楽しいですから、わたしの気が晴れます」
そう言われるとカチェリーナは不安になった。今までグルーシェンカから散々痛めつけられているので、単なる脅しでないことはよくわかる。軍隊に入るより厳しい環境であるのは間違いない。
「もちろん学校の話はなかったことでもいいです。城に帰ってゴロゴロするのも自由です」
「いや、待て」
カチェリーナの中でいろんな感情がせめぎ合った。城でゴロゴロしている方が楽ではあるが、憧れの名門お嬢様学校に入りたいという願望も強い。これはとても難しい決断だった。







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