カチェリーナは昼休みはいつも一人で過ごしていたわけだが、今日はソーネチカのグループと一緒に昼食を食べることになった。ここでソーネチカと友達にならないと、今後の学園生活がずっとぼっちだと思われるので、カチェリーナは緊張していた。机を合わせてみんなでお弁当を食べるなんて初めての体験である。
「カチェリーナ様って、容姿を褒められるのがお嫌いなんですよね」
ソーネチカが確認を求めてきた。
「まあ、そうだな」
「みんながカチェリーナ様に話し掛けないのって、それが原因だと思うのです。だってカチェリーナ様を前にして容姿を褒めたらいけないって無理があります」
「容姿に恵まれた人間を崇拝する取り巻きとか、ああいう光景が嫌なんだ。人間は外見などで判断されるべきではない。内面で判断されるべきだ」
カチェリーナがそう言うと、場が静まりかえった。やらかしたらしいと気づき、カチェリーナは血の気が引いた。無難にやろうと思っていたのに、さっそく空気を凍らせてしまった。しかししばらくすると、みんなクスクスと笑い出した。ブスがあんなことを言ったら引かれるだろうが、美少女として誉れ高いカチェリーナが言うので好感を持たれたのだ。
「カチェリーナ様は面白い方ですね。なかなか立派なお考えだと思います」
「いやいや。単に偏屈なだけで」
少し空気を変えようと思い、カチェリーナは弁当の包みを開けた。そこにはカラフルな色合いの食材が美しく並んでいた。
「あら、可愛いお弁当ですね。カチェリーナ様が作ったんですか」
「これはグルーシェンカの母親が作ったんだ。わたしは女の子っぽく作れないから」
「グルーシェンカさんのお母様とも親しいのですか。すごいですね」
「ところで、みなさんでわたしの城に遊びに来ないだろうか」
カチェリーナは他の面々を眺めながら言った。ソーネチカだけと話すのはよくないと思われたからだ。しかし他の三人はソーネチカに判断を委ねているようだった。
「もしくはグルーシェンカの家でもいいけど。あいつにはさっき確認した。ソーネチカに一度会ったことがあるのも憶えているらしい」
「まあ」
ソーネチカは感激したような表情を浮かべた。
「グルーシェンカさんにまたお会いできたらどんなに嬉しいことでしょう」
どうやらソーネチカは本当にグルーシェンカに心酔しているようだった。いろいろ話しているうちに、カチェリーナの城へ行く案は却下され、グルーシェンカの家に行くことになった。
カチェリーナは最近までソーシャルスキルという概念を知らず、無頓着だったわけだが、いろいろ痛めつけられた上でこうやって人と話すと、その違いがわかってきた。ソーネチカは明らかに意識がはっきりしており、利発で機敏だった。他の三人は何となくぼんやりしており、ソーネチカとは明らかな格差がある。いつも内面でもがいており、辛うじて外面世界と繋がっているカチェリーナからすれば、ソーネチカは超人レベルの存在だった。ソーネチカにとって、内面と外界はシームレスに繋がっており、この円滑な接続がリーダーシップの源となっているのだ。この種の聡明さが人を惹き付けるのは当然であると、カチェリーナはようやくわかってきた。

放課後になり、カチェリーナはソーネチカたちを連れてグルーシェンカの家に帰った。
グルーシェンカはソーネチカに顔を合わせると、「またお会いできて嬉しいです」と天使のような笑顔を見せた。
「憶えていてくださるなんて光栄です。よろしくお願いします」
ソーネチカは興奮を抑えきれない様子で話した。
それから二階の客用の居間に通された。グルーシェンカが飲み物を用意している間、カチェリーナとソーネチカと他の三人で待った。カチェリーナは話題を探したが、生まれてから友達が一人もいない実績通り、何も思い浮かばなかった。ソーネチカは本来的には落ち着き払ったタイプだと思われるが、このときは姿勢を正して固くなっていた。それからグルーシェンカが飲み物を持って入ってきた。
「みなさんカチェリーナ様の相手をするのは大変でしょう。この人はまったく他人とコミュニケーションが出来ないのです。この時代においては淘汰されるべき存在なのです」
「いや、そんな、カチェリーナ様って近寄りがたいと思ってましたけど、意外と親しみやすいというのがわたしの印象です」
「カチェリーナ様は本当は自殺しているはずだったんですよ。漫画家になれなければ自殺すると言って漫画家を目指してたんです」
そう言って、グルーシェンカはどこからかカチェリーナの漫画原稿を取りだした。
「やめろ」
カチェリーナは原稿に掴みかかろうとしたが、非力なカチェリーナはいつも通りグルーシェンカに投げ飛ばされた。壁に叩き付けられ、頭がくらくらしているうちに、あの下手くそな原稿の開陳が終わったようである。
「この最底辺の画力で漫画家目指して、なれなければ自殺というのだからとんでもありません。だからわたしが強制的にやめさせて、学校に入れたのです。しかし、そこでも友達が出来る様子が無く、まったくお手上げの状態なのです」
「ひどいです。確かにグルーシェンカさんは天才的な頭脳の持ち主ですが、だからといって他人をコケにしていいはずがありません」
ソーネチカは怒っていた。
そしてソーネチカは話を続けた。
「カチェリーナ様は確かに不器用ですが、心は美しい方だと思います。友達がいないなら、わたしがなって差し上げますわ。いえ、是非ともカチェリーナ様のような気高い方と親交を深めたいと思いますの」
「わたしなんかダメな人間だ。聖母の理想を抱いていたのにソドムに堕ちるというカラマーゾフの兄弟のテーマそのままになってる。考えていることだけは立派だが、まったく現実が追いついてこないのがわたしの人生だった」
見苦しい漫画原稿を晒されたのでカチェリーナは涙目になっていた。
「いいえ。これから楽しい学園生活にしましょう。わたしでよければ友達にならせてください」
それから後ろの三人も同調して「わたしなんかでよければ」と言ってくる。
「わたしは人間関係がすごい苦手なのだ。みなさんに教えてもらいながら改善したいと思っているのだが」
「ええ、もちろんです。苦手ならわたしが教えてあげます。どんなに失敗しても必ずフォローしていきます」
ソーネチカの凛とした姿勢にカチェリーナはうたれた。この聡明な少女は、慈愛の精神も持っているのだった。グルーシェンカは黙っていたが、座り直して口を開いた。
「カチェリーナ様は15年間ゴロゴロして、漫画家になれなければ自殺すると言っていたのです。そういう最低の人間だと踏まえた上でお友達になるという茨の道を歩むのならよいでしょう」
「ええ。カチェリーナ様は素晴らしい人間精神をお持ちの方です。これを腐らせるわけにはいきません」
それからカチェリーナはソーネチカたちと、iPhoneで連絡先を交換した。ソーシャルネットワークでも仲間にしてもらった。カチェリーナはNexus 7を買ってからiPhoneは放置していたが、頻繁に他人と連絡を取るならiPhoneの方がいいと思ったのだ。







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