カチェリーナはナスターシャとの話し合いを諦め、グルーシェンカの家に戻っていた。なにしろナスターシャはアスペルガー症候群であるし、理屈に強いから手に負えないのである。
そしてナスターシャが黙っているはずはなかった。真性引き篭もりを通じて、カチェリーナに反撃してきたのである。真性引き篭もりの最新エントリーでは、Lunatic Prophetというブログの軍事知識の底の浅さが馬鹿にされていた。このLunatic Prophetはカチェリーナが匿名で運営しているブログである。カチェリーナは艦隊これくしょんというゲームについてエントリーを書いたのだが、真性引き篭もりはこれをあげつらい、その知識の浅さを嘲笑したのだ。
カチェリーナはグルーシェンカを自室に呼んで相談することにした。
「わたしが匿名でやっていたブログがナスターシャに発見されたようだ。知識が浅いとして、すごい馬鹿にされている」
「あいつはカチェリーナ様の名前を出して嘲笑してるんですか」
「いや、今のところはそうではないが、わたしのブログだと嗅ぎ付けたんだろうな。あいつはハッキングの技術はかなりありそうだ」
「ナスターシャはカチェリーナ様の城に住んでるんですから、調べるのは容易かったんでしょう。すぐに城から追い出すべきだと思います」
それからグルーシェンカは真性引き篭もりの記事を読み始めた。Lunatic Prophetのことは話してなかったから、カチェリーナは顔から火が出る思いだったが、隠しておくわけにもいかなかった。
「いかにもwikipediaで生半可な軍事知識を身につけたというエントリーですね。これは馬鹿にされても仕方ないです。ナスターシャは機械系の知識がありますから、指摘はかなり的確です。あいつは親から虐待されてはいますが、両親とも高学歴で教育熱心です。情緒がゴミでも知識だけはあるんですよ」
カチェリーナもそれは認めざるを得なかった。艦隊これくしょんがブームになっているから、それに乗っかろうとしたのだ。カチェリーナは無教養な親からネグレクトされ、15年間ゴロゴロしていたから、ネットで囓った表面的な知識しかない。
「このLunatic Prophetというブログは、wikipediaの貼り合わせです。軍事の知識や世界史の知識の乏しさが明らかであり、文化資本が足りない育ちの悪い人間が書いたのが丸わかりです」
「わたしのように家庭環境がゴミだと何をやっても駄目ということか」
「そうです。投じられた文化資本を拡大再生産するのが、優れた人間なのです。文化資本は知性の元手です。この元手を運用して、秀才や天才になるんです。文化資本が乏しい環境だと、この元手がないから、才があっても使い物にならない。でもカチェリーナ様は頑張り始めましたから、すぐに追いつけます。まだ15歳ですから、うちで文化資本を身につければいいのです」
カチェリーナとしても、グルーシェンカの家に来てからはかなり手応えを感じていた。生来の偏頭痛はまったく改善しておらず、いつも脳から全身に疼痛が走っているが、最近はまったく問題としていない。具合が悪いのが普通だと思っており、休まないことにしているのだ。今までは、やらない理由を考えるのが得意であり、少しでも具合が悪ければ薬を飲んでゴロゴロしていたが、この素晴らしい家庭環境で怠けるのはとても恥ずかしいことだった。いきなり中学三年生から始めたが、勉強は難なく出来た。不満があるとすれば、最初からこの家に生まれたかったということだけである。
「カチェリーナ様はわたしより知能が高いですから、根気よく何年かやれば本物の教養を身につけることが出来ます。wikipediaは所詮は要約だけ書いてあるサイトなんで、豆知識の羅列です。文化資本に恵まれていないゴミに向いていると言えます。知的なバックグラウンドが無い階層にはこれで充分でしょう」
「せっかく憧れのお嬢様学校に入れて貰い、リザヴェータやグルーシェンカのような教養ある令嬢と暮らしているのに、わたしは見苦しい育ちの悪さを晒してしまったのだ」
「そんなのは簡単に変わります。うちで文化資本をたくさんインプットすれば、いずれ素晴らしい結果をアウトプット出来るようになります」
「わたしはそれで救済されるかもしれないが、これだけ恵まれた家庭環境に引き取ってもらえる事例はほとんどないだろう。文化資本が乏しい育ちの人間は救われないというのか。いっそのこと、わたしの資産を使ってwikipediaを越える内容のサイトを作りたいと思う」
「ああ、それは面白いと思います。wikipediaを潰す必要はなくて、これは豆知識サイトとしてあっていいんですが、もっと本格的な文献に接することの出来るサイトがあれば、人類の文化の発展に寄与することが出来るでしょう」
「実はわたしは古本が苦手なんで、資料がネットにあったらいいと思っている。絶版されていて古本で買うしかない本も結構あるが、手に取る気にならない」
「女性はきれい好きですから、古本嫌う人多いです。女性からも喜ばれるでしょう」
「わたしだけが読むなら、業者にスキャンして貰えばいいが、やはり人類に幅広く提供したいと思う」
そうやって二人でいろいろ話していると構想が盛り上がってきた。カチェリーナの資産で著作権の問題をクリアし、絶版されている有用な文献を幅広く提供するのだ。どのような家庭に生まれようとも、ネットにアクセスできるなら、無料の素晴らしい文献に接することが出来る。世界的大富豪であるカチェリーナの資産を使えば、これは現実的だった。そして、これから花開く教養文化に思いを馳せると、wikipediaの知識に甘んじていた自分が恥ずかしくなった。土台となる教養がないのに、ネットで調べた豆知識だけ並べても意味はないのだった。カチェリーナはLunatic Prophetを削除した。







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