近代文明の手前の13世紀、ユーラシア大陸はモンゴルに制圧された。この当時は、騎馬民族が最強だったのである。モンゴルの馬は長距離を走るのに向いており、それが幅広い侵略を可能にした。ウクライナ(もしくはロシア)のルーツであるキエフ大公国は1240年にモンゴルに滅ぼされた。モンゴルは1258年にはイラン、イラクのあたりを征服し、イルハン朝を建てた。中国も1279年にモンゴルに征服され、元朝となる。ユーラシア大陸の多くをモンゴルが支配する形になり、Pax Mongolicaと呼ばれる。なお、キエフ大公国はモンゴルが来る前から東西分裂していた。東側のウラジーミル・スーズダリ大公国はモンゴルに隷属する道を選んだ。これが後のロシアに繋がっている。ロシアは数百年間モンゴルに支配されたから、モンゴルの血はずいぶん入っていると思われる。西側のハールィチ・ヴォルィーニ大公国は反モンゴルの姿勢を取ったが、勝てるはずもなく、ずいぶんと蹂躙されたようだ。それから近代になり勢力図は変わり、1789年にクリミア半島はロシアに帰属することになった。クリミア半島のタタール人はモンゴル系(もしくはトルコ系)の人間であり、過去の侵略者であるから、ロシアからの復讐を恐れ、トルコに亡命した人間がたくさんいた。だから現在のクリミア半島でタタール人は少数派なのである。1955年にフルシチョフはウクライナを懐柔するために、クリミア半島をウクライナ帰属とした。そして2014年、またロシアに戻ったのである。

ナスターシャはクリミア半島が奪い取られたのを見て、虚しい勝利感に浸っていた。真性引き篭もりで反ロシア感情を煽ったことが実を結んだのだが、いざ現実となると、その無益さを思い知らされたのである。148センチのちいさな身体を床に横たえ、巨大な部屋の天井を見上げていた。そしてここが戦渦に巻き込まれる可能性を考えると、不安になってきた。ナスターシャは気性が激しく激昂しやすいが、臆病で気が弱いのである。その怒りと不安の葛藤が真性引き篭もりという巨大な虚無を生んだのだが、こうやって世界地図に火柱が上がったからには、その劫火が自らの足下まで延焼してくる可能性があった。ナスターシャは不安になり、部屋の外に出た。すると、城の中を怪しげな男達がうろついていたのである。ナスターシャは動揺し、階段を駆け下りた。この城から出ても、行くあては無かったが、一刻も早く脱出しなければならないと考えたのだ。しかし入り口のある一階まで降りると、怪しげな男達が何十人もたむろしていた。ナスターシャはアスペルガー症候群特有のパニックに陥り、転げ回るくらいに震えながら、地べたに這い蹲った。恐怖で痙攣するしかなかったのである。
やがて入り口付近の男達に動きがあった。まるでモーゼを通すかのように道を開け、そこからカチェリーナが姿を現したのだ。
「おまえの望み通り、クリミア半島がなくなってよかったな」
カチェリーナはナスターシャを見下ろした。
ナスターシャは激しい動悸に妨げられ言葉が出なかった。
しばらく時間が経過し、ようやく口を開いた。
「あの男達は……」
「なにかと物騒なのでわたしが呼んだ」
カチェリーナは平然と答えた。
ナスターシャは自らの気の弱さに直面させられ、カチェリーナの落ち着き払った態度に圧倒されたのである。
「ロシア人は所詮はモンゴルとの混血だ。わたしのような純血種のスラヴ人とは気が合わないらしい」
ナスターシャは歯の根が合わないくらいに震えていたが、生来の気性の激しさで何とか噛みついた。
「暫定政権の側に付くわけだな。僕と同じじゃねーか」
「わたしはロシアもCIAも両方否定する。二択を退ける第三勢力が今のウクライナには必要だ」
「死ぬぞ」
「人間はいつかは死ぬ」
カチェリーナはごく普通に答えた。







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