死を願い森に迷い込んだ少女の絶望が広がり、空虚さで満たされた時、あたかも一筋の光が煌めくように図像が頭に浮かび、それを経血で大地に描きひたすら祈ったのである。
月明かりが少女の黒髪を照らし、あかたも瀕死の熱病患者のようにふるえていたが、それを鎮めるかのように足音が聞こえてきたのである。
一つ目の怪人が彼女の前に立ち、そのサイクロプスの肩には金髪碧眼の美しい少女が座っていた。
「なぜにそなたは悪魔の力を求めるのか理由を聞かせよ。魂と引き替えに手にしたいものはなんだ」
「わたしの肉体を一度だけ男性に変更できるでしょうか」
「それなら容易いことだ。だが何のためにそれを求めるのであろうか」
頭上から金髪の少女に睥睨されるとおののいたが、黒髪の少女は正直に話すことにした。
「道重さゆみという女を犯して、それを撮影し全世界に配信したいのです」
「ずいぶん変な願いがあるものだな。そなたの名前を尋ねてもいいであろうか」
「鞘師里保といいます」
その悪魔は金髪の髪の毛と紅いドレスをひらりとさせ、鞘師里保と名乗る少女の前に舞い降りた。
「どうやら冗談ではないようだな。これほどまでに深い絶望に立ち会ったことはない」
金髪の少女は哀れむように鞘師里保の頬に手をあてるのであった。
「道重さゆみという手品師はわたしを百合営業に利用しただけでした。青春のすべてを捧げたのに老廃物のように捨て去られたのです。そこに本当の愛情など一欠片もありませんでした」
「さぞかしひどい女なのだろうな。そなたの魂がすでに使えない状態なのだから」
鞘師里保の魂はすでにモズのはや贄のように命を奪われていた。
この完全に蹂躙され、命の焔が二度と灯ることのない魂では、悪魔にとっても用がないものだった。
「ではわたしが道重さゆみに復讐することは出来ないのですね」
「まずその道重さゆみという人間を確認したいのだが」
悪魔が問いかけると、鞘師里保は自分のスマートフォンを取り出した。
悪魔はそれを受け取り、映像を確認した。
そして美しい碧い眸をゆがめ、とても険しい表情を見せたのである。
「これは酷い。まさに悪魔を超えた悪魔。この美貌と雄弁術ですべてを食い尽くされたのなら、そなたが堕胎された嬰児のようになっているのも無理はない」
道重神格化を正当化するために長広舌を振るう姿は、かつて人類を蹂躙した独裁者たちの系譜に連なるものであった。
この道重さゆみという女が、美という資本を独占し、鞘師里保を奴隷的に搾取したのは容易に見て取れた。
「鞘師里保よ。本来ならそなたの壊れきった魂では依頼など受けないのだが、このような悪魔的な人間には背筋が凍る。わたしこそが悪魔であることを見せつけてやらねばならない」
「ああ、ありがとうございます」
「わたしのことはサンジェルマン伯爵と呼んで欲しい。弱り切ったそなたでは無理であろうから、わたしが敵情視察に行ってこよう」

鞘師里保は冷たい大地に頬を押し当てながら時間が過ぎるのを待った。
あのサンジェルマン伯爵と名乗る金髪碧眼の少女なら、なんとかしてくれそうな気がした。
やがて遠くから人影が見えた。
二人の人物が歩いて来る。
道重さゆみと、それに肩を抱かれたサンジェルマン伯爵だった。
「鞘師里保よ。この道重さゆみちゃんという現人神。とても真っ当であり、悪魔たるわたしとしても敬服せざるを得ない人物である」
「その女は神ではありません。自分を神格化するのが得意なだけの手品師です」
鞘師里保は必死で訴えたが、もはや勝負が付いたのは悟っていた。
「まさか鞘師がさゆみを恨んでるなんて思わなかった。あれだけ愛情を注いだのに」
「すべては道重さんの自己演出のためです。あなたが後輩とろくに話もしてなかったことは現リーダーの譜久村も証言しています」
それに答えたのはサンジェルマン伯爵だった。
「鞘師里保よ。それはそなたらが道重さゆみちゃんに値しない器量だったということであろう。美人に相手にされない恨み辛みで魂まで壊したそなたは本当に救いがたい存在である」
「道重さんは悪魔さえも手なずけたのですね。いつもの雄弁術を発揮されたのでしょう」
「悪魔は楽園から追われた神なのよ。このサンジェルマン伯爵さんを見てご覧なさい。喩えようもなく美しい金色の髪の毛、そして透き通るような鼻梁、深く澄んだ碧い眼差し。すべてが元々は神の一部だったことを現していると、さゆみにはわかるの」
サンジェルマン伯爵は道重さゆみに髪を梳かれてうっとりとしていた。
かつて鞘師里保が何度も見た光景であり、鞘師自身も同じ状況に陥ったことがあった。
「道重さゆみちゃんが最高の状態に仕上げたモーニング娘。は今や沈没しようとしているが、鞘師里保よ、それはそなたのようなドブスの力不足がすべての原因である。年末に解散する時は、すべてそなたの責任だとはっきり言うのだぞ」
サンジェルマン伯爵の碧い眸が鞘師里保を睥睨した。
道重さゆみは言質を与えまいとするかのように、普段はよく回る舌を隠し沈黙していた。
鞘師里保は自分が道重さゆみに反逆したことを深く悔いるのであった。







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