鞘師里保はすっかりサンジェルマン伯爵の提案に乗り気になっていた。悪魔だと言うが、この金髪碧眼の少女は少なくとも天使のような見た目をしているし、その血の色のように紅いドレスも、神の一部がこの穢土に墜落してきた象徴のように思えた。あとは、なんらかの手段でつんくを追放すれば、サンジェルマン伯爵の大傑作をモーニング娘。で演じることが出来るのである。そういう鞘師里保の感情の高まりを見透かしたかのように、サンジェルマン伯爵は軽く目を伏せた。
「おまえはわたしに傾倒しつつあるようだが、あくまでわたしは悪魔である。決して神ではない。それを説明するために、かつてわたしがジル・ド・レと名乗っていた頃のことについて述懐しておこう。ジル・ド・レは15世紀のフランス貴族で、当時としては珍しくラテン語をたくみに操るなど、教養深い人間であった。ジル・ド・レはジャンヌ・ダルクの側近としてフランスを勝利に導いたことで知られる。ジャンヌ・ダルクについて説明の必要はあるまいが、オルレアンに住んでいた一人の少女が天啓を受け、廃嫡されていたシャルル七世の元を訪れた。そしてフランスを勝利に導きシャルル七世も戴冠した。ジル・ド・レはこのときにシャルル七世から元帥の称号を与えられたから、実際に貢献度も高かった。シャルル七世は戴冠したことで目的を果たしたが、ジャンヌ・ダルクは戦争継続を望んだ。意見が合わないまま戦いを続けるジャンヌ・ダルクはイングランドの虜囚となり、牢獄で強姦された後、異端者として火あぶりにされたのだよ。ジャンヌ・ダルクを崇拝していたジル・ド・レがこれに深く絶望したことは言うまでもない。なにしろジャンヌ・ダルクだからな。そこら辺の街娼に惚れたのとは話が違う。人類史で聖女と言えば真っ先に名前を思い浮かべるような人物と共に救国のために戦い、そして勝利を収めたのに、ジャンヌ・ダルクには非業の死しか待っていなかった。この後のジル・ド・レだが、遺産相続でかなりの大富豪になっている。当時のフランスで最大の大富豪と言われることもある。しかし、ジャンヌ・ダルクが強姦され火あぶりになった無明の穢土で、金など持っていて何になるであろう。ジル・ド・レは莫大な財産で放蕩の限りを尽くすのだが、だんだん金で買えないものも欲しくなる。それは美少年の身体だ。老婆を使って、お菓子などで誘い、美少年を自分の城に連れてこさせる。そして性的倒錯に溺れたわけである。目的は殺すことであり、それこそ活け作りのように少年の内臓を楽しむなどソドムの極みをやってのけたのである。みやびやかな彼の居城の内部はおぞましい禍殃の瘴気に塗れていたのだ。100人以上の美少年を殺害し、それがやがてジル・ド・レの処刑の原因となる。聖女崇拝がソドムに陥るというのはドストエフスキーがカラマーゾフの兄弟で書いたが、結局のところ、聖女崇拝とは無私無欲ではないのだよ。性欲を最大化させるために禁欲しているのと同じであるから、聖女崇拝に溺れた段階で、ソドムの住人になるリスクは高まるのであり、現世にうんざりしている自分を誤魔化すために何でもするのだから、極左冒険主義と変わりがない危険思想だ。道重さゆみちゃんのファンでまともな人間がひとりもいないのもそれが理由だ」
「道重さんが最期のMCでファンを変な人と言ってましたけど、本当に独特ですよね。あそこまで崇拝感情の強い集団が他にいるんでしょうか」
「聖女崇拝は異常者を惹き寄せるからな。奇蹟がなければ生きていけない連中なのだから当然だ。道重さゆみちゃんにスキャンダルが出た瞬間に、あいつらの世界観は暗転し、悪魔崇拝者に転じるであろう。暗澹たる曇天が奇蹟で晴れ渡り、煌めく青空が見られるはずだったのに、聖女が失墜し、黒い雨しか降らないなら、酸鼻を極める惨禍しか待っていない。だが、鞘師里保よ。おまえを崇拝している人間はこの世に一人もいない。だからわたしも安心して悪魔的な楽曲を提供出来るのだ」
「わたしは道重さんみたいに個人崇拝が目的ではなく、最高の音楽をやりたいだけです。しかしファンの危険性を認識しながら聖女ビジネスをやっていた道重さんもひどいですね」
「道重さゆみちゃんはビジネスではない。本物の聖女だ」
サンジェルマン伯爵は目を眇めて鞘師里保をにらみつけた。
その双眸には道重信者特有の破壊衝動が燃えさかっていた。
13歳の鞘師里保を本気で愛でていた道重さゆみが、だんだんビジネス百合に変わっていくのを自ら体験した鞘師里保としては、道重さゆみはビジネスであり、単なる手品師だと断じることが出来たが、それを説明してもサンジェルマン伯爵を怒らせるだけであるし、自分の容姿の劣化を説明しても惨めになるので黙っておくことにした。







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