女性歌手はやはり不幸な生い立ちであると、表現スタイルを確立しやすい。人生にうんざり、人間に飽き飽きしている、こういうポーズは普遍的な共感を得やすいし、安易とはいえ、やはりスタンダードなのである。中森明菜の歌詞が伝わりやすいのは、本人の才能に寄るところが大きいが、人間と人生にうんざりしているというポーズが共感を得やすいからである。中森明菜が破滅的な人生になっているのは、自分自身が不幸でないと成り立たない歌唱スタイルなので、半ば無意識に転落しているのもあるに違いない。いかにも幸せそうな人生だとまずいわけである。

表現スタイルそのものに独創性はいらない。陳腐な二番煎じは通用しないが、独創的過ぎても駄目である。他人の心に触れて伝える必要があるのだから、何かしら共通体験に語りかける必要があるのだ。鮮烈である必要はあるが、なんら共通体験の橋渡しがなされないのでは意味がない。中森明菜は唯一無二でも、人間と人生にうんざりというテンプレには基づいているのである。

今は亡き菊地最愛ちゃんは、不幸な生い立ちでもないのにアンニュイなところは出せるし、そこから芯の強さや、世界を変えるための溢れんばかりの愛を表現することも出来る。自らの不幸に頼るという形ではなく、思春期の多感な感情を歌に乗せることが出来る希有な天才であった。もあちゃんは幸福であるが、しかし世の中には不満を持ちやすい性格なのである。チェ・ゲバラのような革命家とも言えるし、もあちゃんがグランジロックをやったらニルヴァーナくらいは簡単になれるのだが、MOAMETALというゴミ袋に入れられて死んだのだから、これは人類最高の金色燦爛たる天才が葬り去られたのであり、その遺髪を前にしてどれだけ悼んでもこの悲しみと憎悪が癒えることはない。

武藤彩未ちゃんがなぜ売れないのかと考えるに、まずライブで聴くとかなりの歌唱力であるのに、それがあまり知られていないのがある。CD音源だとあれこれ加工するから、Perfumeのような口パク歌手と同等に思われている可能性がある。アミューズでトップにいた武藤彩未ちゃんと味噌ッ滓のPerfumeでは実力が圧倒的に違うのは言うまでもないのだが、プロデューサーの才能の格差は致命的である。騙されたと思って武藤彩未ちゃんの歌を実際にライブで聴いて欲しいものである。MCも観客との呼吸が素晴らしく、こうやって一体感を生み出せるのは、表現力や社交性の豊かさを感じさせる。百人一首を暗誦しており日本語がしっかりしているのも好感が持てる。

問題は、武藤彩未ちゃんのプロデュース面である。不幸な生い立ちではないので、中森明菜のような王道パターンが使えない。武藤彩未ちゃんのキャラクターで、人生にうんざりという憂いを歌ってもたぶん違和感があるだろう。この女性歌手のテンプレと言える表現スタイルを使ってない、もしくは似つかわしくないので、どうしても軽快なJ-POPということになるのだが、松田聖子のような楽曲を与えられているわけではないので苦しい。Rock'n Rougeみたいな持ち歌があればいいのだが、それがないわけである。

不幸(中森明菜)とかトラウマ(浜崎あゆみ)とか反抗(尾崎豊)とか、この類のテンプレ的な共感性を得やすいコードが武藤彩未ちゃんにはないのである。武藤彩未ちゃんの既存曲で言えば、「桜 ロマンス」や「宙」のようなバラードは聴ける部類である。百人一首が好きということなら、この類の、ちょっとせつない感じの曲を中心に据えた方がいいような気がする。なんとはなしに人生ははかないというのは和歌や漢詩にたくさんある。教養ある貴族が何となく不安を歌うのだから、そうなるのである。

このなんとなくはかないという詩境はちょうど武藤彩未ちゃんに合っている。まったく共感しないのに百人一首を暗誦するわけはあるまいし、栄耀栄華もむなしい、人間なんてはかないという平安貴族の漠然たる不安が、本人にマッチしているはずなのである。「パラレルワールド」をはじめとするアップテンポの曲は楽曲自体が力不足で、なおかつ本人の適性にもまったく合ってない。Rock'n Rougeを提供してくれる親切な人がいればいいが、百年待っても無理であろう。百人一首を切り貼りして、なんとなくはかない、なぜかせつない、という歌詞を書いて貰えばいいし、誰も出来ないなら武藤彩未ちゃんが書いてもいいであろう。著作権フリーの素材なのだから盗作の心配もないし、あれこれ改変したり現代語に直してつぎはぎしてもいいのである。だいたい百人一首に選ばれている天皇は、たいていどこかに流されたりして不幸であるし、藤原定家は不幸な貴人を選んで百人一首を編んだとも言える。零落した貴族がこの世を嘆くという詩境は、現在の武藤彩未ちゃんにふさわしいと思うのだが、なぜかこの観点から歌を歌うというプロデュース方針にはならないようである。







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