「六〇年安保闘争の真実 あの闘争は何だったのか」保阪正康
午前十一時には、日比谷公園で全学連主催による「学生ぎゃく殺抗議、全学連総決起大会」が開かれた。会場には樺美智子の写真と血まみれで倒れている学生の写真が、タテヨコ、二メートルの大きさで飾ってあった。
この大会で樺美智子の父は、「警察の発表では圧死ということになっているが、立ち会った私の知人の専門医の話では……」と前置きして次のように話した。「娘は警官にまず頭を殴られ、手でこれを防いだときにめちゃめちゃに警棒で手を砕かれ、さらに首を腕でしめつけられ窒息の状態で倒れるところをひざで蹴りあげられたと判断される」  警察側は、圧死によると発表しているが、彼女の死因については現在に至るも明確な結論はでていない。


樺美智子の父親が中央大学の教授だったというのは知らなかったが、こんなわけのわからない妄言を吐いていたのも知らなかった。この安保闘争でアメリカ大統領のアイゼンハワーを訪日中止に追い込んだのだし、極左冒険主義と呼んで差し支えあるまいが、決して革命家ではないという立ち位置なのである。革命家が死んだ場合であれば被害者という扱いはあるまいが、樺美智子は被害者なのだからブントに属していても革命家ではないのである。この娘にしてこの父親ありということだろう。学生運動の活動を終える時に「もう子どもではない」というようなことを言うが、やはり子どもによる革命なのである。子どもの革命運動でアメリカ大統領が訪日中止というのもずいぶん奇妙であるが、警官が大人で大学生が子どもというのも変な話である。活動家の大学生が警官に暴言を吐くのが当たり前であったし、「おまえらは文字が読めない」とか煽っていたようだが、警官も学歴コンプのストレス発散として大学生を殴っていた。大学生は子どもだが、高卒の警官は大人ということらしい。樺美智子も22歳の東大生であった。

マルクスは分業を嫌っており、いろんなことが出来る万能の人間を理想としているわけである。最近はレオナルド・ダ・ヴィンチのようなルネサンス人はあまり人気がないし、ひとつのことだけやる方が望ましいとされているが、マルクスはひとつのことを専門にするのは人間疎外だというのだ。


「ドイツ・イデオロギー」マルクス/エンゲルス(花崎皋平訳)
労働が分割され始めるやいなや、
各人はある特定の活動範囲だけにとどまるように強いられ、
そこから抜け出すことが出来なくなる。
彼は猟師、漁夫、または牧夫、または批判的批判家のいずれかであって、
生活の手だてを失うまいと思えば、
どこまでもそのいずれかであり続けなければならない。

これに対して共産主義社会では、
各人はそれぞれに固定されたどんな活動範囲をも持たず、
どこでも好きな部門で、
自分の腕を磨くことが出来るのであって、
社会が生産全般を統制しているのである。
だからこそ、わたしはしたいと思うがままに、
今日はこれ、明日はこれをし、
朝に狩猟を、昼に魚取りを、夕べに家畜の世話をし、
夕食後に批判をすることが可能になり、
しかも、決して、猟師、漁夫、牧夫、批判家にならなくてよいのである。



人間疎外の本質は、人生の一回性であり、これは解決不能である。一日に24時間というのも変更出来ない。右目と左目で別の本を読むのも不可能である。一度にひとつのことしか出来ない仕組みになっている。それ以外の可能性はすべて葬り去られているのだ。なんらかの環境に放り込まれて、その一回がすべてという憂いは人間の本質である。たとえば医者になれた人も医者しか出来ないわけである。明日から医者になれると言われたら、たいていの人はなるかもしれないが、一日中患者の診察をしたりメスを手にして開腹する生活になるのだし、これまでの自分は疎外される。

奴隷がガレー船を漕いでいるのと大差ない過酷な労働をさせられているプロレタリアートが事例になると、その労働に蝕まれ、すべてを奪い取られているという悲劇性は酸鼻を極めるが、これに関しては社会主義的な政策で労働環境を改善すればいいのだし、それは資本主義国家でも行われている。

樺美智子も全能感に満ちた人間だからブント(共産主義者同盟)に入ったわけだし、荒唐無稽なマルクス主義が理想郷に思えたのであろう。この肥大した全能感を修正することがないまま22歳で人生を閉じたのであるし、一個の人間としての目鼻立ちもはっきりしないまま、無限の可能性とともに荼毘に付されたのである。天命に身を投じた革命家としても扱われておらず、ただの被害者として歴史に名を残した。官憲を批判する材料として使うことがブントにとって都合がよかったわけだが、対立する日本共産党は同情してないし、唯物論的に言うなら天国という楽園にいることもあるまいし、死ぬ寸前の頭の中が楽園だっただけである。







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