2020.06.12
怒ってみせる義務
怒ってみせるのが義務となっている。黒人犯罪者が白人警察官に殺されたら怒ってみせなければまずい。あの愚かしいデモを揶揄するのは社会的な死につながる。ドナルド・トランプも大統領選挙で落選するリスクが増してきた。また、遥かに些末な案件だが、お笑い芸人が不倫をしたというのも怒らないといけない感じがある。怒らなければ容認したことになるらしい。この「怒ってみせる」という芝居がめんどうであるから怠けたいのだが、怠けると容認したことになるらしい。無関心は容認と同じというのはひとつの側面であろうし、大衆的関心が惹起されてこそ世の中は変わるのだが、そのために怒りの拳を挙げるのが面倒というのも確かである。このところコロナウィルスでいろんな人が自信を喪失しており、それによって尊厳に飢餓感があるのか、ストレスの捌け口を求めたり、逆にストレス発散が嫌になったり、第一波が一段落しただけに、これからの長い道のりを憂い、不定愁訴が蔓延し、暗澹たる端境期の真っ只中にいるのである。日常に忙殺されていれば、世の中の課題については無関心にならざるを得ないが、何しろ暇を持て余しているので、自己存在だけが虚しく肥大するのである。どうせならこれを機会に怒りを爆発させて安倍晋三を退場させておけばいいのだが、われわれは安倍晋三に何ら劣等感を持っていないので、自信を失った大衆が怨嗟を向ける敵としては物足りない。電通もあと十年もすれば倒産するであろうし、怒るにはやや手遅れ感がある。小池百合子はまだ敵になりうるが、経歴詐称疑惑がカイロ大学によって否定されたので、なかなか難しい。本当の敵は高齢者なのかもしれないが、これについても、親孝行な大衆がずいぶんいるようだし、死に損ないは暇なので選挙には必ず行くから、トランプのような世界史的人物でなければ高齢者を見捨てたりはしない。あと一年くらいは死に体のような人生が続きそうであるし、自転車操業として生きている人間にとっては息が詰まる状態である。これからも存在不安に取り憑かれた群衆が目を爛々と光らせて戦端を開くであろう。さすがに日本では欧米のようなデモはなさそうだが、不安に駆られた個々人が自信回復のために何かをやらかすことは続く。
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