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平氏が驕っていたということだが、平清盛がやったことで本当にひとびとを激怒させたのは福原遷都くらいであろう。この福原遷都にしても乱心というわけではなく、以仁王の乱(1180年)があり、これで源氏が立ち上がったため、清盛としてはめんどうなことになり始めていた。宗教権力も平氏の敵に回ったので、いろいろと大変であったから、京都から離れることを決意したのである。安徳天皇(平清盛の娘の息子)を京都に置いておくと危険というのが懸案事項であった。この当時は僧兵というのが仏罰の畏怖を背景に幅を利かせていたので、対立は避けたかった。結局は福原遷都が大不評であったため半年持たずに元に戻ることになり、平清盛は京都の宗教勢力を叩き潰すことにした。園城寺と興福寺を焼き払ったのである。これも後の織田信長などを見れば普通に思えるが、当時としては驕慢だったのかもしれない。どちらにせよ、こういう武家のやり方が後には普通になる。平清盛の台頭で摂関家は終わったし、武力による支配の先駆者と言えるのだが、摂関家が衰退したのは白河法皇の院政がきっかけであるし、平清盛が特に革命を起こしたわけではない。平清盛が台頭したのは白河法皇の御落胤だからとされており、この真偽は今日では確かめようがないにしても、どちらにせよ戦場で活躍して天下を取ったわけではない。めざましい出世をしただけである。戦国武将とは扱いが異なるのである。保元の乱や平治の乱で勝利者の側になったが、これは朝廷での権力闘争を鎮圧したという扱いであろうし、英雄とは違う。

平氏という悪を源氏という正義が倒したというわけではない。後白河法皇と平氏の対立関係ということに過ぎない。後白河法皇は中継ぎで天皇になっただけだが、66歳まで生きているから、何度失脚しても復権しただけである。平清盛が後白河法皇を幽閉して、年若い高倉上皇に院政を敷かせた段階で、本来なら政治生命は終わっているのである。この高倉上皇が20歳で夭折して後白河法皇が復権したのが、平氏の滅亡の大きな要因ではある。もしくは、院政を巡る権力闘争をずっとやっていただけであり、平氏はそこで勝利し、敗北もしたというだけである。都落ちの時に後白河法皇を連れて行こうとしたら逃げられたのが平氏滅亡の直接の原因である。

平清盛の存命中から源平の争いは始まっていたが、本格的になるのは平清盛が64歳で病死してからであるし、その死から四年後に、高倉上皇の息子である安徳天皇(平清盛の孫)は壇ノ浦に沈むことになるのである。源氏の軍勢の中心であった源義経の方がいいイメージで語られるのは、やはり平清盛がこの時点ですでに鬼籍に入っているからであろう。平清盛は敗軍の将としてもキャラクターが立っていない。平清盛は朝廷の実権を握っていた状態であったが、天下を取ったとは言えないし、自らの理念を実現したわけではない。国家を設計したという側面が薄いので、その意味でも英雄的な存在とは言えないのである。悪人とかそういうことではなく、英雄にはなれなかった、もしくはならなかったのである。
花が咲く、風が吹く、花が散る。いかに多くの歌人がこれをテーマに詩を書き綴ったかわからないし、花に喩えて人生のはかなさを歌うのが詩歌であると言っていいくらいなのである。花には意識がないし、主体性などあるまいから、われわれの爪が伸びてはそれを切ってるのと変わりないだろうが、花鳥風月を擬人化して歌にするとして、やはり花の命こそが、その瞬間的な美しさからして、無常たるわれわれの人生に重ね合わせるのに似つかわしいのである。今年の花と来年の花は違う、とわれわれは認識しており、散りゆく今年の花は永遠に消え去ると考えるのである。残酷さを含んでいるからこそ時間がある。簡単に巻き戻せたり、もしくはいくら時間を無駄にしても永遠に無尽蔵だから構わないとなると、そこに人生の重みはまったくないであろう。この現世において、われわれは時間を売って生活していると言ってもいいわけである。経年劣化に脅えつつ、時間を投じて成果を得るのである。

道重さゆみちゃんが消えた世界において、最後の残された希望が菊地最愛ちゃんであることは論を待たない。アイドルたるべき人類愛にあふれたパーソナリティーの持ち主であり、AKBのような品性下劣さはまったくなく、どこまでも貴人として品位を保ち続ける人物であろうという信頼性は絶対である。ひとつの時代を作るべくしてこの世に生まれたはずなのである。本来なら国民的アイドルとしてドームツアーをやっている頃である。しかし、もあちゃんはなぜかBABYMETALのサイドダンサーの地位に甘んじているのである。

「そろそろBABYMETALを解散したいんです。五月からの海外ドサ周りとかあり得ないです。日本のファンの方にわたしの姿を見せることすら出来ません」
菊地最愛ちゃんは意を決してKOBAMETALの部屋を訪れたのである。
そこでは鶏やひよこが無造作に飼われており、あちこちに血塗れの潰された死体が転がっていた。
KOBAMETALは鶏をそのまま食べて生活しているのである。
この顔面に悪魔の入れ墨をほどこした狂人に文句を言うなど、そう簡単にできることではないが、もあちゃんも我慢の限界である。
「ずいぶん思い上がったものだな。この俺がプロデュースしたBABYMETALあってこそ、おまえもチヤホヤされているのだぞ」
KOBAMETALはスカル・リングを嵌めた指で鶏の首を絞め、あわれにも吐き出された血を舐めるのであった。
「SUちゃんがすごいのは認めます。あれだけ声量のある女性ボーカリストはいません。でもアイドルならわたしで充分です。SUちゃんにアイドル性は皆無です。まるでゼネコンの下請けのようなことを、わたしがやらされているのは納得がいきません」
確かにその通りであった。
中元だけは絶対にアイドルではない。
なのになぜアイドルと名乗れるのかと言えば、水野由結ちゃんと菊地最愛ちゃんにアイドル性を丸投げしているからである。
「おまえは何か誤解している。おれは中元を無理して売りたいわけではないんだ。中元はたまたま顔がオジー・オズボーンに似てるからボーカリストにしてるんだよ」
「そんなどうでもいい理由でボーカルを選んでいるんですか。でも、それならわたしと由結は外してもいいですよね」
「それだとアイドルとメタルの融合が出来なくなる。ゆいもあにアイドルの部分は任せているわけだ」
「でもBABYMETALなんてたいしたことないです。ゆいもあなら東京ドームを埋める自信があります。なぜ、メタルというニッチなところでやらないといけないのでしょうか」
もあちゃんの言い分はもっともである。
ゆいもあならいくらでも飛躍できる。
なぜ、メタルという足枷をはめられ、不自然なアイドルをやらないといけないのだろうか。
KOBAMETALはにやりと笑うと後方のディスプレイに映像を映し出した。
そこに映っていたのは、ゆいもあの裸であった。
ふたりが一緒にシャワーを浴びている姿が映し出されていたのである。
「俺が死んだら、この盗撮映像のコピーが世界中にバラまかれることになる」
もあちゃんは言葉を失うしかなかったのである。
KOBAMETALは後白河法皇に並び立つような大天狗なのであった。
水面下で今年の五月に予定されていた菊地最愛東京ドーム公演が、BABYMETALのメキシコライブにすり替わったのは、こういう真相である。
近いうちにすべてのアイドルは死滅する。
肥大したAKBは戦艦大和のようであり、秋元康はいつものように勝ち逃げしてすべてを無かったことにするし、世界最高のアイドルたるべき菊地最愛ちゃんが、その花が咲くべき時期をメタルレジスタンスの生け贄として捧げられているのだから、これで終焉を迎えなかったら不思議である。
鞘師里保はサンジェルマン伯爵に呼ばれて山荘を訪れた。
モーニング娘。は不人気のため今年いっぱいで解散するのは確実だが、その元凶であるつんくを排除する計画のためである。
しかしサンジェルマン伯爵は鞘師里保を見ると浮かない表情を見せたのである。
「鞘師里保よ。事情が変わったのだ。佐藤優樹が天才だと発覚した。佐藤楽曲で最後の勝負をすることにしたのだよ」
佐藤が作曲に打ちこんでいることは鞘師も知っていたが、曲は聴いたことがなかった。
「そんなにすごい曲なんでしょうか」
「現段階ではすごくない。だが、音楽の基礎がしっかりしているし、かなり可能性を感じる。かつてわたしがリヒャルト・ワグナーと名乗っていた頃でも、15歳であれは作れなかった」
「佐藤は作曲家になりたいわけではないでしょう」
「だからいいんだよ。佐藤はワナビじゃないんだよ。作曲家になる夢など無いのに、ただひたすら曲を作っている。あいつは絶対音感もあるし、ピアノもなかなか上手いし、ドラムも叩ける。演奏スキルもかなり有望だ」
「佐藤楽曲でモーニング娘。を立て直せるんでしょうか」
「佐藤が傑作を生み出すまであと何年か掛かるだろう。その前にモーニング娘。が潰れてしまう。そこで、わたしがギタリストとして参加する案を考えた。佐藤楽曲が未完成な部分はわたしのギター演奏で補う」
「なるほど。まあいいんではないでしょうか」
鞘師里保は何となく頷いた。
元々はサンジェルマン伯爵の悪魔的な大傑作をやるはずだったが、佐藤が本当に天才ならそれはそれで面白いだろう。
サンジェルマン伯爵は透き通るような白い肌をした金髪の美少女であり、彼女がギタリストとして参加するなら、かなり有力なメンバーであるように思えた。
楽器担当なら鞘師のセンターを脅かすこともない。
「わたしのギターの腕は信用してくれ。かつてSteve Vaiを指導したこともあるが、少なくともあいつよりは上手いつもりだ。だが、わたしが参加するにはひとつ条件がある。鞘師里保よ、そなたは芸能界を今すぐ引退しろ」
唐突に思いもしなかった要求をされて、鞘師里保は言葉を失うしかなかった。
「悪魔は代償を求めるのだよ。犠牲が必要だ。鞘師里保が引退するという犠牲があれば、わたしがギタリストをやる。まあ強要はせんから、そなたが拒否するならお流れだ。つんく楽曲で突撃して轟沈するがいい」
「サンジェルマン伯爵の力はどうしても必要です。モーニング娘。に力を貸してください」
「だから鞘師が引退すれば、わたしは何でもやると言っている」
「わたしが引退したらマイナス材料です。伯爵がプラス材料でも相殺されるじゃないですか」
「センターは牧野真莉愛でいく。あいつはアイドル属性かなり強いし、鞘師みたいなちんちくりんと違ってスタイルもいいからな」
「確かに牧野はいいですよ。いつかはセンターになると思います。でもこの鞘師里保がセンターでないモーニング娘。なんてありえません」
「その鞘師がセンターだと今年で潰れるんだよ。そなたが潔く引退すれば、モーニング娘。は救済される。万が一の場合は、わたしの悪魔の力で延命させる。今年で終わりにはしない。おまえが引退すれば、モーニング娘。のみんなが幸せになれるんだ。モーニング娘。のために引退してくれ」
「いやです。自分が解雇された後にチームが優勝しても嬉しくないです」
「エゴの極みだな。実は今回の計画は道重さゆみちゃんも賛同してくれているのだよ」
サンジェルマン伯爵の後ろには、いつの間にか道重さゆみが立っていた。
その表情は、先ほどのサンジェルマン伯爵の言葉を肯定していた。
「道重さんひどすぎます。わたしを排除してモーニング娘。延命とかあり得ないですよ」
「もちろんわかってる。でも伯爵は代償が必要だって言うの。鞘師がセンターだからこそ、生け贄として価値がある。芸能界からすぐに引退して欲しい」
「わたしは絶対に引退しません。それでモーニング娘。が終わるとしても構わない」
「モーニング娘。のためになるんだよ」
「人に認められたい女の子が集まっているのがモーニング娘。です。道重さんだって、人に認められたくてやっていたわけでしょう。わたしもそうなんです。どうしても認められたい。認められてから死ぬならいいけど、無名のまま死ぬのは耐えられないです。わたしの考えはおかしいでしょうか。認めて欲しくて頑張ってるからこそアイドルではないでしょうか。道重さんのファンだって、道重さんみたいな類い希な美人が、モーニング娘。という泥船に乗りながら、正統派アイドルとして認められるために頑張ってる姿を応援してたんです。バラエティー番組で頭からローションをかぶっていた道重さんだからこそ、シンデレラになりたいという強い欲求があり、そこに共感してたんです。確かにわたしがセンターをやっているせいでモーニング娘。は今年で終わります。広島アクターズスクールにいた頃に、中元すず香だけアミューズに優遇されていて、わたしは黙殺されてましたが、いつかアミューズが後悔するだろうと思ってました。しかし、今の現状を見れば、アミューズが正しかっただけなんです。モーニング娘。とBABYMETALの格差を見れば、それは明らかです。でも、わたしは、中元すず香にひとつだけ勝っている自信があるんです。どうしてもアイドルとして認められたいという強い願望を持っていることです。このままでは死んでも死にきれないと悶絶していることです。これは中元のような天才にはわからないでしょう。中元は人から認められることに飢えてないし、マイペースでやってるだけです。わたしが素材として劣っているのは間違いないです。でもわたしは本当に認められたいんです。人から認められたいという渇望なくしてはアイドルたり得ないというのは、わたしの思いこみでしょうか。まるで趣味のようにマイペースでやっている中元がアイドルと言えるでしょうか」
鞘師里保は中元すず香への劣等感をぶちまけ、そして自分の中のもやもやの正体に気付いたのである。
シンデレラストーリーの渇望こそがアイドルの本質であるはずだ。
確かに中元すず香の実力はすごいかもしれない。
だが、のんびりとマイペースで天賦の才を開花させているのだから、そこにアイドルとしての情熱があるわけもなく、老人が盆栽をやっているのと同じなのである。
「さゆみは鞘師の言ってることは本当に正しいと思う。モーニング娘。は決して、アミューズみたいに選ばれた人間の集まりではないけど、ほんの一瞬でも認められたいと思って命を賭けている。鞘師がそこまで言うのなら、サンジェルマン伯爵の力を借りずに自分でやっていいと思う」
「でも道重さんの卒業で動員力を失ったモーニング娘。をわたしが支えるのは無理でしょう。今年で終わるというのは確かだと思います」
道重さゆみに自分の考えを肯定して貰っても、鞘師の心は晴れなかった。
絶対に芸能界引退はしたくないが、自分の我が儘でモーニング娘。を終わらせるのも後ろめたい。
そこに口を挟んだのがサンジェルマン伯爵だった。
「わたしから提案をさせて貰おう。鞘師里保の引退を条件としていたが、この条件の変更は受け入れる。道重さゆみちゃんの肉体なら、それだけの価値はある。ビジネス百合だと疑われている鞘師里保との関係。それがビジネスではないと、ベッドの上で証明し、その映像を世界中に公開するのであれば、代償として認めるし、わたしもあらゆる協力は惜しまない」
「さゆみでいいならやります。そのかわりモーニング娘。を助けてください」
「待ってください。なんで道重さんがそんなはしたないことをするんですか。誰からも聖女として崇められている道重さんの肉体を辱めるなんて、そんなの絶対にあり得ません。わたしが芸能界を引退した方がいいですよ」
「鞘師里保よ。そなたはわたしの提案をちゃんと聞いたのであろうか。道重さゆみちゃんにAV男優と寝ろとは言ってない。道重さゆみちゃんと鞘師里保で本気の性行為を行い、それをビデオで記録して、全世界に公開すると言っているだけだ。あのピンクのシャツを着た道重信者も、鞘師里保とのセックス映像が流出するなら、歓喜の声を上げるだろう」
「道重さんはわたしのことなんか好きじゃないですよ。すべてがビジネス百合です。横浜アリーナで唇を重ね合わせたのも、会場を盛り上げるための手段だったんでしょう」
鞘師里保はうちひしがれていたが、いつの間にか奥の部屋に導かれていた。
サンジェルマン伯爵がカメラを構える前で、道重さゆみが服を脱いでいく。
「道重さん。本当にそんなのはやめてください。こんなわたしみたいな売れないアイドルとやったら道重さんが汚れます」
だが道重さゆみの裸身を見ると、鞘師里保も目を奪われるしかなかった。おそらく世界の誰もがそれを夢見るであろう一糸まとわぬ姿が目の前にあるのだった。この聖性に触れる資格などないことはわかっていたが、鞘師里保の中で膨れあがる欲望は理性を踏みにじり、まるで夜盗が女に襲いかかるように、道重さゆみの華奢な躰を抱え込み、白い素肌に吸い付いたのであった。ベッドに押し倒された道重さゆみは鞘師里保の背中に手を回し、襟足に舌を這わせながら服を脱がせていった。その絡みついて焼けるような熱さは、自分が特別に寵愛されているという感覚を鞘師里保に与えた。もうこれ以上の記述に意味はあるまい。決して怠惰から筆を省くのではない。道重さゆみと素肌を重ね合わせ、お互いに骨の髄まで貪り合うことは、どのような言葉でも表現できまい。性を知らない無垢な少女である道重さゆみが、今こそ鞘師里保と本当の意味で巡り会った。床上手な美女もいいであろうし、それを表現するなら通俗的な言い回しで足りるが、道重さゆみが性に目覚める瞬間となると、ただ単に美少女であるだけでなく、歴史上類い希なる賢明さを持った人物が、ずっと畏れていた未知なる甘美さに触れ、その熱さに陶酔し溺れていく様子を書かねばならない。誰も見たことのない超越的な世界の具現、千年王国であり大日如来の曼荼羅世界、それを現す単語があるはずもない。だが、そのような永遠たる楽土を鞘師里保はまさに自らの肉体で経験したのであり、もはや道重さゆみの百合がビジネスだとひねくれることも出来なかった。
「いやあ、素晴らしいものを見せて貰った。ここまでの本格的な百合を見せられたとなると、わたしも本気で取り組まなければならない」
行為が終わって惚けていると、サンジェルマン伯爵がベッドの横に立っていた。
「この撮影したビデオはわたし個人の宝物として門外不出にする。世間の期待に応えないのが悪魔だからな」
「ああ、そうしてくれるなら有り難いです」
「つんくを追放するのはわたしがやっておこう。佐藤楽曲で勝負を賭ける。そう言えば、中元すず香はシンガーソングライターになりたいんだよな。これに関しては完全なワナビだぞ。あらゆることを何も言わずに実現していく中元が口に出すのだから、作曲なんぞ何もわかってない。中元は直感で閃いていることは何も言わずにやる。作曲に関してはセンスの欠片もないから夢を語るんだよ。中元が現段階で作曲してないのは、作れないと断定していいんだ。佐藤優樹こそが本物であるのは間違いない。つまりモーニング娘。は、自ら天才作曲家を抱えているという点においてBABYMETALを凌駕しているのだよ。あいつらは他人が作った曲を歌ってるだけだ」
BABYMETALが結成された経緯については意外と知られていない。
KOBAMETALというアミューズで閑職に回されていた男が、巨大なバイクにまたがり、奇声を発しながらさくら学院の門をぶち破ったのである。
その時のKOBAMETALは指にスカル・リングを嵌め、骸骨のシャツの上には、鋲をたくさん打ちこんだ黒いレザージャケットを羽織っていた。
縮れた長髪の中には蛇のタトゥーが彫られた凶相が浮かんでいた。
さくら学院という楽園に地獄からの使者が訪れたのだ。
そして校長室に押しかけ、校長と対面したのである。
「俺はメタルをやりたいんです。おたくの水野由結という子を使って、可憐ガールズを復活させたいんです」
そうつぶやく亡霊のような男に校長は慄然としたが、校長はさくら学院の生徒のために、出来る限り威厳を保ちながら接することにした。
「あなたのおっしゃってることは意味がわかりません。なんで水野由結がメタルをやらないといけないんですか」
だがKOBAMETALという狂人に話は通じなかった。
「可憐ガールズでメタルをやるんです」
「水野由結を加えて四人編成にするわけですね」
「年齢的にフィットする子を中心に選びたい。島ゆいかは外します。あと、ボーカルはひとりでいいので、武藤彩未は外します。中元すず香だけいればいい。中元に歌わせて武藤にダンスだけやらせると不協和音が生じますからね」
「待ってください。水野由結は武藤彩未の幼なじみで、その流れでアミューズに入ってるんですよ。武藤が連れてきた水野を可憐ガールズに入れて、可憐ガールズから武藤を外すのは無理があります」
「あくまで課外活動ということにしてくれればいいんです。可憐ガールズ復活でメタルで世界征服という野望は伏せておいて、あくまでお遊びとして始めるんです。すでにデモテープも作ってあります」
さくら学院校長はそのド・キ・ド・キ☆モーニングという曲を聴いて唖然とした。
可憐ガールズにギターサウンドを噛ませただけだったからだ。
このKOBAMETALという男がメタルで失敗して閑職に追いやられた経緯が目に浮かぶようだった。
「ともかく俺はメタルがやりたいんだよ。中元すず香・水野由結・菊地最愛の三人で可憐ガールズを復活させるのでよろしくお願いします」
「逸材を三人も使うならどんなプロデューサーでも売れますよ。確実に売れる素材を、あなたの個人的な趣味のメタルで使い潰すなんてありえない。だいたいそうやって分断されたら、さくら学院四天王の一人の武藤彩未が終わってしまう。すべての生徒を守るさくら学院校長として決して認められない。アミューズも大損害です。どうりであなたがアミューズで閑職に追いやられているわけだ」
「なんだと!」
KOBAMETALは激憤した。
これまで何度もメタル復活の野望を閉ざされてきた人生。
異端者として自分を蔑んできた世界。
その象徴がさくら学院校長に思えたのだ。
地獄の住人であるKOBAMETALにとって、遠い天上界の楽園であるさくら学院はレジスタンスの対象であった。
KOBAMETALはナイフを取り出すとさくら学院校長の胸を一突きにした。
「アイラブユー!ピーポー!」
KOBAMETALはさくら学院校長の死体を前にオジー・オズボーンさながらに叫ぶのであった。
これによってKOBAMETALの復讐劇は始まった。
KOBAMETALは校長室にガソリンを撒くと廊下に出て燐寸に火を付けて投げ入れた。
その血の色をまとい燃えさかる紅蓮の炎を背にして、新しい未来へと歩き出したのである。
校庭に出ると、避難したさくら学院の生徒が劫火の前に脅えている姿があった。
暗澹たる中世の地獄絵図の中に生け贄の少女が配置されるというメタラー好みの光景である。
KOBAMETALは水野由結の姿を見つけて近づいたのである。
「さくら学院は全焼してしまうね。これではアミューズも大変だ。君が稼いで赤字をどうにかしないといけないね」
KOBAMETALに肩を叩かれると水野由結は悄然として頷いた。
「おじさんは可憐ガールズを復活させようと考えているんだよ」
そして用意していたド・キ・ド・キ☆モーニングを聞かせるのであった。
「可憐ガールズそのままの曲ですね。武藤彩未ちゃんと一緒に武道館のステージに立つのが夢なので、やれるなら嬉しいです」
「彩未ちゃんは実力があるからソロでやっていくんだ。彩未ちゃんの代役として、君に白羽の矢が立ったんだよ」
KOBAMETALは水野由結に背を向けると悪魔崇拝者としてのほほえみを見せた。
音を立てて崩れ落ちながらも炎を吐き出すさくら学院の校舎は、まるでこれからのメタルレジスタンスを象徴しているようだった。
この時にKOBAMETALの頭の中に浮かんだのがBABYMETALというユニット名である。
可憐ガールズのパクリとはいえ、やはりまっさらなユニットとして自分の手柄にしたい。
さくら学院四天王の中で最も人望のある武藤彩未の排除に成功したのだから、実権はKOBAMETALが掌握したのである。
「これからの由結ちゃんはすべてキツネのお告げで行動するんだよ。キツネのお告げ以外のことをやってはいけない」
こうして水野由結から自由意志は奪われ、お告げのままに生きる人形になったのだ。
今や水野由結はさいたまスーパーアリーナを埋め尽くすほどのスターになったが、もはや人間ではないのである。
時折、あのもう名前も憶えていない幼馴染みと一緒に武道館を埋めるという、かつて人間だった頃に誓い合った夢を漠然と思い出して、よくわからないながらも涙がこぼれ胸が痛むのである。
鞘師里保はすっかりサンジェルマン伯爵の提案に乗り気になっていた。悪魔だと言うが、この金髪碧眼の少女は少なくとも天使のような見た目をしているし、その血の色のように紅いドレスも、神の一部がこの穢土に墜落してきた象徴のように思えた。あとは、なんらかの手段でつんくを追放すれば、サンジェルマン伯爵の大傑作をモーニング娘。で演じることが出来るのである。そういう鞘師里保の感情の高まりを見透かしたかのように、サンジェルマン伯爵は軽く目を伏せた。
「おまえはわたしに傾倒しつつあるようだが、あくまでわたしは悪魔である。決して神ではない。それを説明するために、かつてわたしがジル・ド・レと名乗っていた頃のことについて述懐しておこう。ジル・ド・レは15世紀のフランス貴族で、当時としては珍しくラテン語をたくみに操るなど、教養深い人間であった。ジル・ド・レはジャンヌ・ダルクの側近としてフランスを勝利に導いたことで知られる。ジャンヌ・ダルクについて説明の必要はあるまいが、オルレアンに住んでいた一人の少女が天啓を受け、廃嫡されていたシャルル七世の元を訪れた。そしてフランスを勝利に導きシャルル七世も戴冠した。ジル・ド・レはこのときにシャルル七世から元帥の称号を与えられたから、実際に貢献度も高かった。シャルル七世は戴冠したことで目的を果たしたが、ジャンヌ・ダルクは戦争継続を望んだ。意見が合わないまま戦いを続けるジャンヌ・ダルクはイングランドの虜囚となり、牢獄で強姦された後、異端者として火あぶりにされたのだよ。ジャンヌ・ダルクを崇拝していたジル・ド・レがこれに深く絶望したことは言うまでもない。なにしろジャンヌ・ダルクだからな。そこら辺の街娼に惚れたのとは話が違う。人類史で聖女と言えば真っ先に名前を思い浮かべるような人物と共に救国のために戦い、そして勝利を収めたのに、ジャンヌ・ダルクには非業の死しか待っていなかった。この後のジル・ド・レだが、遺産相続でかなりの大富豪になっている。当時のフランスで最大の大富豪と言われることもある。しかし、ジャンヌ・ダルクが強姦され火あぶりになった無明の穢土で、金など持っていて何になるであろう。ジル・ド・レは莫大な財産で放蕩の限りを尽くすのだが、だんだん金で買えないものも欲しくなる。それは美少年の身体だ。老婆を使って、お菓子などで誘い、美少年を自分の城に連れてこさせる。そして性的倒錯に溺れたわけである。目的は殺すことであり、それこそ活け作りのように少年の内臓を楽しむなどソドムの極みをやってのけたのである。みやびやかな彼の居城の内部はおぞましい禍殃の瘴気に塗れていたのだ。100人以上の美少年を殺害し、それがやがてジル・ド・レの処刑の原因となる。聖女崇拝がソドムに陥るというのはドストエフスキーがカラマーゾフの兄弟で書いたが、結局のところ、聖女崇拝とは無私無欲ではないのだよ。性欲を最大化させるために禁欲しているのと同じであるから、聖女崇拝に溺れた段階で、ソドムの住人になるリスクは高まるのであり、現世にうんざりしている自分を誤魔化すために何でもするのだから、極左冒険主義と変わりがない危険思想だ。道重さゆみちゃんのファンでまともな人間がひとりもいないのもそれが理由だ」
「道重さんが最期のMCでファンを変な人と言ってましたけど、本当に独特ですよね。あそこまで崇拝感情の強い集団が他にいるんでしょうか」
「聖女崇拝は異常者を惹き寄せるからな。奇蹟がなければ生きていけない連中なのだから当然だ。道重さゆみちゃんにスキャンダルが出た瞬間に、あいつらの世界観は暗転し、悪魔崇拝者に転じるであろう。暗澹たる曇天が奇蹟で晴れ渡り、煌めく青空が見られるはずだったのに、聖女が失墜し、黒い雨しか降らないなら、酸鼻を極める惨禍しか待っていない。だが、鞘師里保よ。おまえを崇拝している人間はこの世に一人もいない。だからわたしも安心して悪魔的な楽曲を提供出来るのだ」
「わたしは道重さんみたいに個人崇拝が目的ではなく、最高の音楽をやりたいだけです。しかしファンの危険性を認識しながら聖女ビジネスをやっていた道重さんもひどいですね」
「道重さゆみちゃんはビジネスではない。本物の聖女だ」
サンジェルマン伯爵は目を眇めて鞘師里保をにらみつけた。
その双眸には道重信者特有の破壊衝動が燃えさかっていた。
13歳の鞘師里保を本気で愛でていた道重さゆみが、だんだんビジネス百合に変わっていくのを自ら体験した鞘師里保としては、道重さゆみはビジネスであり、単なる手品師だと断じることが出来たが、それを説明してもサンジェルマン伯爵を怒らせるだけであるし、自分の容姿の劣化を説明しても惨めになるので黙っておくことにした。
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